全裸DTMの効果

 ある日、プロ作曲者様Tansa神とツイッターをしていると、

 と教えて頂きました。

 

 全裸DTMとは、その名の通り服を全て脱いでDTM(パソコンで作曲)をする事を指します。なぜ、全裸DTMによってクリアなサウンドが得られるのでしょうか。

 

 全裸DTMの有用性を理解するあたり、今回は音響学の観点から考えてみましょう。

1.音の基本法

  音源をスピーカー、観測者を私たちとします。その間には空気があるので、音は空気を媒質にし伝搬すると考えられます。それを下にまとめました。

 

i)スピーカーが微小時間内に動く

ii-1)空気が圧縮された情報は音速で空気中を伝わる

ii-2)空気が圧縮され、圧力が高くなる

iii)観測者が音を観測する

 

 これらを定量的に考えてみましょう。理想気体の空気の圧力をp_0、空気密度をρ_0とする。また、簡単のため音が横(x軸)方向へのみ伝わるとします。

 

i)スピーカーが微小時間t内に動き、速度uへ達する。

ii-1)スピーカー空気中を伝わる情報はcで進むとする。(c>>u)

ii-2)yz面と(ct-ut)で作る体積内の圧力はp、空気密度ρはだけ増加する。

 iii)波動方程式に則り観測者まで届く

 

 これから波動方程式が導き出せば良いわけですが、まずはyz面の単位面積における運動量保存則を考えます。「空気に与えられる力=空気中運動量の時間変化」なので、

  p=\frac{d}{dt}ρ_{0}ctu

  p=ρ_{0}cu   (1)

が得られます。これは「空気圧(音圧)」と「スピーカーが空気を圧縮する速さ(粒子速度)」の関係を示した式です。

 

  続いて、単位面積当たりの質量保存則が成り立つと考えると「スピーカーから圧縮される前の質量=圧縮された後の質量」なので

  ρ_{0}ct=(ρ_{0}+ρ)(ct-ut)

 となり、微小量(ρu)の掛け算は非常に小さくなるので、この項を落とすと、

  u=\frac{ρc}{ρ_{0}}   (2)

が得られます。これも同様に「音圧」と「粒子速度」の関係を示した式です。

 

(1)式(2)式より

  p=c^{2}ρ   (3)

が得られました。これは「空気密度」と「空気圧の比例関係」の比例関係を示した式です。

 

 

2.音の波動方程式

 題1では基本法則を導き出しました。これらの基本法則を使って波動方程式を導きます。

 

 まず、粒子の質量は連続でなければならない事を定量化していきます。定量化する準備として、定性的に表現すると、

 「ある体積に流入する粒子の質量」ー「流出する質量」=「残る質量」

が言えます。断面積S[x,x+dx ]が作る体積で考えて式に表すと、

  ρ_{tot}(x)Su(x)-ρ_{tot}(x+dx)Su(x+dx)=???

となり、ρ_{tot}(x)u(x)→ρ_{tot}u(x)として、この式をまとめると、

  ρ_{tot}u(x)S-ρ_{tot}u(x+dx)S=???

となります。「???」の部分を求めるために「流出する質量」を一次の項までテイラー展開すると、

   ρ_{tot}u(x+dx)S=ρ_{tot}u(x)+\frac{∂ρ_{tot}u}{∂x}dx

となります。(簡単のために省略していますが、ρ,uは時間成分も持っているため偏微分)

 これらの式を使用すると

  ρ_{tot}u(x)S-ρ_{tot}u(x+dx)S=-\frac{∂ρ_{tot}u}{∂x}dxS

ある体積に残る質量が得られました。

 

 ある体積には時間が変わっても常に-\frac{∂ρ_{tot}u}{∂x}dxSだけ質量が残ると考えてよいので(これ波動方程式立てるために無理やりやってるみたいで違和感あるけど、音伝わってる時にある部分だけ真空になったら怖いよねって言い聞かせつつ)、

 「単位時間に対して空気密度の変化率」×「体積」=「単位時間に残る質量(どの時間でも一定)」

 が成り立つとすると、

  \frac{∂ρ_{tot}}{∂t}dxS=-\frac{∂ρ_{tot}u}{∂x}dxS

となる。したがって、

  \frac{∂ρ_{tot}}{∂t}dxS+\frac{∂ρ_{tot}u}{∂x}dxS=0

 と分かりました。

 ここで、ρ_{tot}u=ρ_{0}u+ρuの第二項は微小量の掛け算なので落とすと、

  \frac{∂ρ}{∂t}+ρ_{0}\frac{∂u}{∂x}=0

 が成り立つ。また、準備のためこれを時間で偏微分しておく。

  \frac{∂^2ρ}{∂t^2}+ρ_{0}\frac{∂^2u}{∂x∂t}=0   (4)

 

 次にある体積にかかる外力についての運動方程式を立てます。

 x軸にのみ力が存在しないと考えると、

 「右向きの外力」-「左向きの外力」=「質量×加速度」

となる。空気密度の保存則と同様にテイラー展開すると

  p_{tot}(x)S-p_{tot}(x+dx)S=-\frac{∂p_{tot}}{∂x}dxS

が成り立つので、運動方程式を立てると、

  -\frac{∂p_{tot}}{∂x}dxS=ρ_0dxS×\frac{∂u}{∂t}

となり、同じく

  \frac{∂p}{∂x}+ρ_0\frac{∂u}{∂t}=0

となる。また準備のためにxで偏微分しておく。

  \frac{∂^2p}{∂x^2}+ρ_0\frac{∂^2u}{∂x∂t}=0   (5)

 

 

 さて、準備が整ったので、波動方程式が求まる。(4)式(5)式の第二項を消し、(3)式を代入すると、

  \frac{∂^2p}{∂x^2}-\frac{1}{c^2}\frac{∂^2p}{∂t^2}=0

と音圧の波動方程式が求まった。これから音圧は速度cで伝搬することが分かる。

 また、前項1で求めた比例関係から

  \frac{∂^2u}{∂x^2}-\frac{1}{c^2}\frac{∂^2u}{∂t^2}=0

  \frac{∂^2ρ}{∂x^2}-\frac{1}{c^2}\frac{∂^2ρ}{∂t^2}=0

 が言えるので、粒子速度や空気密度も速度cで伝搬すると分かる。

 同様にして3次元について解くと、

  \frac{∂^2p}{∂x^2}+\frac{∂^2p}{∂y^2}+\frac{∂^2p}{∂z^2}-\frac{1}{c^2}\frac{∂^2p}{∂t^2}=0

 となる。

 

 

3.音の反射と透過

 やっと波動方程式を導けたわけました。お疲れさまでした。あともうひと踏ん張りです。

 さて、音圧の波動方程式から求まる一般解は定数A,Bを用いて

  p(x,t)=Ae^{j(ωt-kx)}-Be^{j(ωt+kx)}

 と分かります。また粒子速度の一般解は上式と(2)式より

  u(x,t)=\frac{1}{ρc}(Ae^{j(ωt-kx)}-Be^{j(ωt+kx)})

 と分かりました。どちらも第二項は逆向きに進む波なので、今回はこの項を落とします。

 

 入射をi、反射をr、透過をtとすると、反射波の進む方向に気を付けて、定数Pを用いると音圧は

  p_{i}=P_{i}e^{j(ωt-kx)}

  p_{r}=P_{r}e^{j(ωt+kx)}

  p_{t}=P_{t}e^{j(ωt-kx)}

 と表される。また粒子速度については、 

  u_{i}=\frac{P_{i}}{ρ_{1}c_{1}}e^{j(ωt-kx)}

  u_{r}=-\frac{P_{r}}{ρ_{1}c_{1}}e^{j(ωt+kx)}

  u_{t}=\frac{P_{t}}{ρ_{2}c_{2}}e^{j(ωt-kx)}

と表される。

 

 境界条件より

  p_i+p_r=p_t

  u_i+u_r=u_t

となる。粒子速度の境界条件を音圧で表現すると(2)式より

  \frac{1}{ρ_{1}c_{1}}p_{i}-\frac{1}{ρ_{1}c_{1}}p_{r}=\frac{1}{ρ_{2}c_{2}}p_{t}

である。

 これにρ_{1}c_{1}を掛けて音圧の境界条件を足したもの、ρ_{1}c_{1}を掛けて音圧の境界条件を引いたものを用意する。

  2p_{i}=(1+\frac{ρ_{1}c_{1}}{ρ_{2}c_{2}})p_{t}

  2p_{r}=(1-\frac{ρ_{1}c_{1}}{ρ_{2}c_{2}})p_{t}

 これらを使って音圧の透過率Tと反射率Rを求めると、

   T_{p}=\frac{p_{t}}{p_{i}}=\frac{2ρ_{2}c_{2}} {ρ_{1}c_{1}+ρ_{2}c_{2}}

   R_{p}=\frac{p_{r}}{p_{i}}=\frac{ρ_{2}c_{2}-ρ_{1}c_{1}} {ρ_{1}c_{1}+ρ_{2}c_{2}}

と分かった。

 

 

 4.音の吸音率

 最後の項です。ここでは実際にどのくらい服が音を吸音してしまうのか見てみましょう。

 まず、音のエネルギーは実効値p^2と瞬時値P^2の関係¥\sqrt{2}p=Pを前提として

  I=\frac{p^2}{ρc}=\frac{P^2}{2ρc}

と表せる。よってエネルギーの反射率は

  |R|^2=\frac{I_{r}}{I_{i}}=\frac{P_{r}^2}{P_{i}^2}

となる。反射しなかったものは全て吸収されたとみなせるので、吸収率は

  α=1-|R|^2=\frac{I_{i}-I_{r}}{I_{i}}=\frac{P_{i}^2-P_{r}^2}{P_{i}^2}

と表せる。

 

 人間は2000Hz前後を音の中心として認識する人が多いらしい(音圧アップのためのDTMミキシング入門講座 石田ごうき著 P63)ので2000 Hz帯で考えてみる。

 "遮音と吸音"さんのサイトによると、パイルカーペット(10 mm)の残響室法吸音率は2000 Hzで0.30でした。また、人物の吸音率は0.42でした。

 よって人体に届くまでにパイルカーペットがあると、

  (1-0.3)×0.42=0.29

となり、人体は本来42%吸収するはずだった音を29%しか吸収できなくなります。

 これは誤差では収まらない範囲なので、確かに全裸DTMには有用性があり、クリアなサウンドになると考えられます。

 

 

 5.まとめ

  • 普段10 mmのパイルカーペットを着ている人が全裸でDTMするとクリアなサウンドになる。
  • プラグインとの比較すべきだけど、めんどくさい
  • Tansaさんは神

 

 以上で全裸DTMについての記事は終わりです。

最後に、Tansaさんが編曲された曲をぜひ聞いてください。ありがとうございました。